高齢者に多く見られる大腿骨頸部骨折は、転倒をきっかけに突然起こる深刻な骨折の一つです。寝たきりの原因にもなりうるこの骨折について、今回は原因・症状・診断方法・治療・リハビリ・予防法まで、わかりやすく解説します。ご家族に高齢者がいる方や、医療介護関係者の方にも役立つ内容です。
大腿骨頸部骨折とは?
大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)とは、太ももの骨である「大腿骨」の付け根部分、特に骨頭(股関節を形成する丸い部分)と骨幹部をつなぐ「頸部」と呼ばれる細い部分が骨折する状態です。
この部分は、体重がかかる非常に重要な場所であり、骨折によって歩行困難になり、場合によっては寝たきりになることもあります。
骨折の分類 大腿骨頸部骨折は、大きく分けて以下の2つに分類されます:
- 内側骨折(頸部内骨折):関節包の中にある骨折で、血行障害が起こりやすく、骨癒合が困難なことが多い。
- 外側骨折(転子部骨折):関節包の外側での骨折。血流が保たれやすく、治癒しやすい傾向がある。
主な原因とリスク因子
高齢者に多い理由
大腿骨頸部骨折の最も多い原因は「転倒」です。特に高齢者は骨密度の低下(骨粗鬆症)や筋力低下、バランス感覚の衰えにより、ちょっとした段差でも転倒しやすくなっています。
その他のリスク因子
- 骨粗鬆症:特に女性に多い。閉経後の女性は骨密度が急激に低下します。
- 視力や聴力の低下:周囲の危険を察知しにくくなり、転倒につながりやすい。
- 認知症:歩行中の注意力が下がり、転倒しやすくなります。
- 多剤服用(ポリファーマシー):眠気やふらつきを起こす薬の影響で転倒リスクが上がります。
- 過去の骨折歴:一度骨折すると、再び転倒するリスクが上昇します。
症状と診断方法
主な症状
- 急な股関節や太ももの強い痛み
- 立ったり歩いたりできない
- 骨折側の脚が短く見える
- 足が外側に向いてしまっている(外旋位)
診断方法
- X線(レントゲン)検査:最も基本的な検査。骨折の有無を確認します。
- MRI検査:初期の小さな骨折や、X線では判別しにくい場合に有効。
- CT検査:骨の状態や骨折線の詳細を確認するために使用。
治療方法の種類
治療方法は、骨折の種類や患者の年齢・活動性・全身状態によって異なります。
保存療法(非手術療法)
- ごく軽度の骨折で、骨のずれがほとんどない場合に選択されます。
- 寝たきりや長期の安静が必要になるため、廃用症候群(筋力低下・認知機能の低下など)のリスクがあります。
手術療法(一般的)
骨接合術(観血的整復固定術)
- 金属のスクリューやプレートを使って、骨を元の位置に固定します。
- 自分の骨を温存するため、若年者や骨癒合が期待できる症例に用いられます。
人工骨頭置換術(人工骨頭挿入術)
- 折れた骨頭部分を人工の金属に置き換える手術。
- 高齢者や、骨癒合が困難なケースに適応されます。
- 手術後すぐにリハビリを開始できる利点があります。
全人工股関節置換術(THA)
- 骨頭と臼蓋(受け皿の骨)両方を人工物に置き換えます。
- より活動性が高く、今後も積極的に歩く必要のある患者に選択されます。
手術後のリハビリ
手術後のリハビリは、合併症の予防と早期の歩行回復を目的として非常に重要です。
入院中のリハビリ
- 手術翌日からベッド上での足の運動
- 早期離床:可能であれば翌日から起立・歩行訓練を行う
- 理学療法士によるマンツーマン指導
自宅または施設でのリハビリ
- デイケア、訪問リハビリ、通所リハビリなどで継続的な訓練を行います。
- 歩行器や杖などの補助具の使い方も習得します。
- バランストレーニング、筋力トレーニングが中心です。
合併症と注意点
合併症の例
- 肺炎や尿路感染症:長期寝たきりによるリスク
- 深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症:血のかたまりが原因
- 褥瘡(床ずれ)
- 認知機能の低下やせん妄
家族や介護者の役割
- 声かけやサポートによるリハビリの継続
- 環境整備(段差解消、手すり設置など)
- 食事・水分・睡眠管理
再発予防と日常生活の工夫
骨粗鬆症の治療
- ビタミンDやカルシウムの摂取
- 骨粗鬆症治療薬の内服や注射
- 定期的な骨密度検査
転倒予防の工夫
- 室内の段差や滑りやすい床を改善
- 十分な照明の確保
- 補助具の活用(杖、手すりなど)
- 適切な靴を履く(滑り止め付き)
筋力とバランス能力の向上
- スクワットや片脚立ちなど、筋力維持のための運動
- 高齢者向けの体操やウォーキングも有効
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まとめ
大腿骨頸部骨折は、特に高齢者にとって命に関わるほどの影響を与える重大なケガです。早期の手術とリハビリがその後の生活の質を大きく左右します。骨粗鬆症の治療や転倒予防といった日常の対策を講じることで、再発も防ぐことが可能です。
高齢者が安心して暮らせる環境づくりと、転ばない体づくりが何よりも大切です。
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