膝の痛みを抱えている中高年の方の多くが、「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」という疾患に悩まされています。立ち上がるときや階段の上り下りで膝が痛む、正座ができない、膝が腫れてきた…そんな症状がある方は要注意です。
本記事では、変形性膝関節症について、原因・症状・診断・治療法・予防法まで、わかりやすく詳しく解説します。
変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減ることで関節が変形し、痛みや動きの制限が生じる慢性疾患です。加齢に伴って関節のクッションである関節軟骨が摩耗し、骨と骨がこすれ合うことで痛みや腫れが生じます。
中高年以降の女性に多く、特に60歳以上では非常に高い有病率を示します。厚生労働省のデータによれば、日本では自覚症状のある患者が約1000万人、潜在的な予備軍を含めると3000万人以上いるとされています。
原因と発症のメカニズム
主な原因
変形性膝関節症の原因は大きく分けて次の2つです。
- 一次性(加齢性):明確な外傷などのきっかけがなく、加齢や長年の使用により軟骨がすり減って発症します。最も一般的なタイプです。
- 二次性:ケガ(骨折や靭帯損傷)、関節リウマチ、先天性疾患、過去の膝手術などの原因によって軟骨が傷み、変形が進みます。
危険因子
以下のような要素が変形性膝関節症の発症リスクを高めます。
- 加齢
- 女性(特に閉経後の女性はリスクが高い)
- 肥満(体重が膝関節に大きな負担をかける)
- O脚
- 重労働や運動での過剰な膝の使用
- 遺伝的要素
主な症状
変形性膝関節症の症状は進行に伴って段階的に変化します。
初期症状
- 膝の違和感や軽いこわばり
- 長時間歩いた後の軽い痛み
中期症状
- 階段の昇降時の痛み
- 正座が困難になる
- 膝に水(関節水腫)がたまる
- 動かすとゴリゴリ音がする(軋轢音)
末期症状
- 安静時にも痛む
- 歩行が困難になる
- 膝が著しく曲がってO脚が進行
- 膝の変形が外見にも明らかになる
日常生活に支障が出てくるのはこの段階で、手術を検討する必要が出てきます。
診断方法
変形性膝関節症の診断には、以下のような手法が用いられます。
- 問診と視診・触診:症状の確認、膝の変形の有無、歩き方の観察など。
- X線(レントゲン)検査:軟骨のすり減り具合や関節の隙間の狭小化、骨の変形(骨棘形成)を確認。
- MRI検査:軟骨や半月板、靭帯の損傷の評価。
- 関節液検査:膝に水が溜まっている場合、その内容を調べて炎症の程度や他の疾患(例:リウマチ)との鑑別を行います。
治療法(保存療法・手術療法)
治療は症状の進行度に応じて選択されます。大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。
保存療法
薬物療法
- 消炎鎮痛薬(NSAIDs)で炎症と痛みを抑える
- ヒアルロン酸の関節内注射
運動療法・リハビリ

- 大腿四頭筋の筋力強化(膝の安定化)
- 内転筋群の筋力強化
- 関節可動域の維持
装具療法
- 膝サポーターや足底板で膝の負担を軽減
体重管理
- 減量によって膝への負担を軽くすることが、非常に効果的です。
- エルゴメーター、プールで歩くなどは膝に負担がかからず効果的です。
手術療法
保存療法で効果が乏しい場合や、日常生活に支障がある重度のケースでは手術が選択されます。
高位脛骨骨切り術(HTO)
- O脚を矯正し、荷重バランスを変える手術。若年者や活動性の高い患者向け。
人工膝関節置換術(TKA/UKA)
- 痛んだ関節部分を人工関節に置き換える手術。痛みが著しく軽減し、QOLが改善されます。
日常生活での注意点とセルフケア
変形性膝関節症は、日々の生活習慣が症状に大きな影響を及ぼします。
注意点
- 正座やしゃがみ込みなど膝に負担がかかる動作は避ける
- 長時間の立位や歩行を控える
- 階段は手すりを使い、できるだけエレベーターを利用
セルフケア
- 温熱療法(ホットパックや入浴)
- ストレッチや体操(膝を無理なく動かす)
- 筋トレ(大腿四頭筋の強化がおすすめ)
予防法と早期発見のポイント
予防のカギは「膝に優しい生活」
- 体重コントロール:1kg減るだけでも膝への負担は大幅に減ります
- 筋力の維持:ウォーキングや水中運動など膝に優しい運動を習慣に
- 柔軟性の確保:筋肉や靭帯の硬さを防ぐストレッチ
早期発見のポイント
膝に以下のような症状が出たら、早めに整形外科を受診しましょう。
- 朝起きたときに膝がこわばる
- 歩き始めに膝が痛い
- 正座やしゃがむ動作が困難になってきた
まとめ
変形性膝関節症は高齢者を中心に非常に多くの方が悩んでいる疾患です。進行すると手術が必要になることもありますが、早期発見・早期対処によって、症状の悪化を防ぎ、痛みのない生活を取り戻すことが可能です。
膝に違和感を感じたら、「年のせいだから仕方ない」と思わず、まずは整形外科を受診しましょう。そして、日頃からの予防とセルフケアを意識して、健康的な膝を守っていきましょう。
参考資料:
- 日本整形外科学会『変形性膝関節症の治療指針』
- 厚生労働省『高齢者の関節疾患に関する統計データ』
- 各医療機関のリハビリ指導ガイドライン
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