「脳出血」という言葉はよく耳にしますが、実は脳のどこで出血するかによって、症状や後遺症は大きく異なります。
その中でも、日本人の脳出血で最も発生頻度が高いのが**「被殻出血(ひかくしゅっけつ)」**です。
今回は、あまり聞き慣れない**「被殻(ひかく)」**という部位が普段どのような重要な働きをしているのか、そしてそこで出血が起きると何が起こるのかを詳しく解説します。
1. そもそも「被殻(ひかく)」とは?
被殻は、大脳の深い部分にある**「大脳基底核(だいのうきていかく)」**という神経核のグループの一部です。
形が貝殻を被ったように見えることから「被殻」と名付けられました。
どこにあるの?
脳のちょうど中心あたり、側頭部の奥深くに位置しています。隣接する「淡蒼球(たんそうきゅう)」と合わせて「レンズ核」とも呼ばれます。
被殻のすごい役割:運動のコントロールタワー
被殻は、私たちがスムーズに動くために欠かせない役割を担っています。主な働きは以下の通りです。
- 運動の調整と学習 自転車に乗ったり、箸を使ったりといった「練習して身につける動作」を記憶し、スムーズに行えるように調整しています。
- 無意識の動作のサポート 歩くときに自然と手が振れる、姿勢を保つといった、意識しなくても行っている動作をコントロールしています。
- 「動け」と「止まれ」の制御 筋肉に対して、適切なタイミングで力を入れたり緩めたりする指令を中継しています。
- 右の被殻出血 → 左半身の麻痺
- 左の被殻出血 → 右半身の麻痺
| 出血部位 | 主な症状 | 解説 |
|---|---|---|
| 左被殻出血 (優位半球) | 失語症 | 言葉がうまく出てこない、相手の言葉が理解できないといった言語障害が起こりやすくなります。 |
| 右被殻出血 (劣位半球) | 半側空間無視 | 目は見えているのに、左側の空間にあるもの(食事や人など)を認識できなくなります。 |
4. 治療と予後について
治療法
出血の量や患者さんの意識レベルによって治療方針が決まります。
- 保存的治療(内科的治療) 出血が少なく意識がはっきりしている場合は、血圧を下げる薬を使い、出血の拡大を防ぎながら自然吸収を待ちます。
- 外科手術 血腫が大きく(一般的に30ml以上)、意識障害が進んでいる場合や、脳ヘルニアの危険がある場合は手術が行われます。
- 開頭血腫除去術: 頭蓋骨を開けて血腫を取り除く。
- 内視鏡下血腫除去術: 小さな穴から内視鏡を入れて血腫を吸い出す(体への負担が少ない)。
リハビリテーション
被殻出血は、命を取り留めても後遺症(特に運動麻痺)が残りやすい病気です。
発症直後から関節が固まらないように動かし始め、その後、起き上がり、立ち上がり、歩行訓練、そして日常生活動作(着替えやトイレなど)の訓練へと段階を進めていきます。
まとめ:最大の予防は血圧管理
被殻は私たちの「スムーズな動き」を支える名脇役ですが、ひとたび出血が起きると生活に大きな影響を及ぼします。
被殻出血の最大のリスク要因は**「高血圧」**です。
日頃から血圧を管理し、塩分を控えた食事や適度な運動を心がけることが、この大切な脳の司令塔を守る一番の近道です。
「血圧が少し高いだけ」と侮らず、定期的な健診を大切にしましょう。

コメント