トミー・ジョン手術とは?野球選手に多い肘の再建手術の実態


野球経験者であれば、一度は耳にしたことがある “トミー・ジョン手術”
投手を中心とした投球動作を行うスポーツでは、肘の内側に大きな負担がかかり、その結果として 内側側副靭帯(UCL:Ulnar Collateral Ligament)の損傷が発生します。

近年、日本の高校球児やアマチュア選手の間でも受傷率が増加し、メディアでも取り上げられるようになりました。しかし、一般の患者さんやご家族にとっては、専門用語が多く “結局どんな手術? 治るの? 復帰までどれくらい?” と疑問が尽きないテーマでもあります。

本記事では、医療知識がなくても理解できることを第一にしながら、実際に選手を診る現場で扱われるレベルの専門的内容も盛り込み、できるだけ丁寧に 解説します。


トミー・ジョン手術とは?

■ 正式名称

内側側副靭帯再建術(UCL再建術)

1974年、米国大リーガーであった トミー・ジョン投手 が世界で初めて受けたことから、その名前で呼ばれるようになりました。

UCLは肘の内側に存在し、
「投球時に肘が外側に開く力(外反ストレス)を押さえる役割」 を持つ重要な靭帯です。

ピッチングでは、1球投げるたびに強い外反ストレスが発生し、特にボールリリースの瞬間には体重の数倍にも及ぶ力が肘にかかると言われています。これが繰り返されることで、靭帯が伸びたり、部分的に断裂したり、完全断裂に至ることがあります。

■ トミー・ジョン手術の目的

  • 損傷したUCLの代わりとなる 新しい靭帯を作る(再建する)
  • 投球時の肘関節の 安定性を取り戻す
  • スポーツ復帰、特に投手としての競技復帰 を支援する

特に投手においては、肘の内側痛は「致命的」といえるため、競技レベルに合わせて判断されることが多い手術です。


どのような人がトミー・ジョン手術を検討するのか?

すべてのUCL損傷が手術になるわけではなく、多くは保存療法(リハビリ、投球制限、PRPなど)で改善します。

しかし、次のようなケースでは手術が検討されます。

■ 手術を考える条件

  1. 投球時の肘の内側痛が強く、投球動作が困難
  2. MRIでUCLの部分断裂または完全断裂が確認される
  3. 保存療法を3〜6ヶ月行っても改善しない
  4. 今後も 競技レベルで投球を続ける強い意思がある
  5. 肘の不安定感(ぐらつき)が明らか

特に、

  • 高校〜大学の投手
  • 社会人・プロ野球選手
  • 競技継続を強く望む選手
    では手術が選択されやすい傾向があります。

一方で、
「日常生活には支障がない」「趣味レベルで十分」
という方は保存療法で様子を見ることが多いです。


手術方法:どうやって靭帯を作るのか?

トミー・ジョン手術の特徴は “新しい靭帯を作って移植する” 点です。

■ 再建に使われる腱(グラフト)

一般的には患者自身の腱を使用します。


代表的な採取部位は以下の通りです。

  • 前腕の長掌筋腱(Palmaris longus)
    (最も一般的で、機能への影響が少ない)
  • ハムストリングス腱(半腱様筋など)
  • 足の伸筋腱

長掌筋腱が元々ない人(約10〜20%)は他の腱を使うことになります。

■ 手術の手順(ざっくり解説)

  1. 皮膚を切開してUCLを確認
  2. 損傷した靭帯を除去または温存
  3. 上腕骨と尺骨にトンネルを作る
  4. 採取した腱をトンネルに通し、靭帯のように固定する
  5. 縫合して終了

固定方法には
Jobe法、Docking法、Modified Jobe法、Hybrid法
など複数の術式がありますが、現在は構造的安定性と腱への負担が少ない Docking法 が主流。


手術の所要時間・入院期間

  • 手術時間:1.5〜3時間程度
  • 入院期間:1週間前後が一般的
    (病院によっては2〜4日で退院するケースもある)

術後は固定とリハビリが非常に重要で、手術の成功は “術式だけでなく、その後の回復プログラムに大きく左右される” と言われます。


手術後のリハビリ:1年間のロードマップ

トミー・ジョン手術で最も大切なのが リハビリの継続
完治までに 約12〜18ヶ月 を要する長丁場です。

以下、一般的なプロトコルの流れを記します。


◆ 0〜2週間:安静・痛みの管理

  • 肘の固定(スプリントや装具)
  • 手関節・肩関節の軽い動作はOK
  • まだ肘は大きく動かさない

目標:痛みと腫れのコントロール


◆ 2〜6週間:可動域の回復

  • 装具を調整しながら肘を少しずつ動かす
  • 完全な伸展や屈曲をいきなり行わない
  • 手首や肩の筋トレ開始

目標:肘の可動域を徐々に取り戻す


◆ 6〜12週間:筋力の回復フェーズ

  • チューブトレーニング、肩甲帯の強化
  • 前腕の筋力向上
  • 体幹トレーニング開始

※この時期に無理をすると復帰が遅れるため慎重に進める。


◆ 3〜6ヶ月:動作トレーニング

  • ランニング
  • メディシンボールを用いた体幹連動トレ
  • シャドーピッチング開始(※投げない)

目標:投球フォームの下地作り


◆ 6〜9ヶ月:投球再開

  • キャッチボールを軽強度から開始
    → 18m → 27m → 36m…と距離・強度アップ
  • 約9ヶ月で軽いブルペン入り

目標:痛みなく「投げる」段階に戻る


◆ 9〜12ヶ月:投球強度アップ

  • 本格的なブルペン投球
  • フォームの改善
  • 球速を徐々に上げる

◆ 12〜18ヶ月:競技復帰

  • 試合形式の投球
  • 中6日や週1登板など調整
  • 競技復帰(Return to Play)

高校生〜大学生であれば
術後1年〜1年半でベストパフォーマンスへ
プロ投手では
1年3ヶ月〜2年で完全復帰
が一般的です。


手術の成功率と復帰率

トミー・ジョン手術は比較的成功率が高いことで知られています。

■ 復帰率

  • 全体:80〜90%が競技復帰
  • 投手:70〜85%が元の競技レベルに復帰
  • 野手:90%以上が復帰

プロ野球やMLBでも、多くの投手が手術後に復活しており、
球速が上がった例もある ため“魔法の手術”のように誤解されることもあります。

ただし、実際には

  • 入念なリハビリ
  • フォーム改善
  • 体幹強化
    が合わさってパフォーマンス向上につながっているケースが多いです。

手術によるリスク

どんな手術にもリスクはありますが、トミー・ジョン手術の合併症として知られるものは以下。

  • 尺骨神経(肘の内側の神経)のしびれ
  • 感染、出血
  • 可動域制限
  • 移植腱の固定不良
  • 再断裂
  • 肘の持続的な痛み

発生率は高くありませんが、特に 神経症状(小指〜薬指のしびれ) が出やすいため、術式によっては神経を一時的に移動(前方移行)させることもあります。


トミー・ジョン手術を回避できるのか?

多くの患者さん・親御さんが気にされるポイントです。

実はUCL損傷の多くは 手術せずに治療可能 です。
特に高校生や中学生の場合、

  • 投球制限
  • フォーム改善
  • 肩・肩甲骨・体幹の適切なトレーニング
  • リハビリ
  • PRP療法(再生医療の一種)

で改善するケースは多いです。

逆に、投球を休まずに投げ続けると、
部分断裂が完全断裂に進行し、手術が必要になるリスクが高まる ため、早期の受診が大切です。


手術後に大切なこと:メンタルとフォーム改善

トミー・ジョン手術は成功率が高い反面、
復帰までが長く精神的につらい という現実があります。

  • 「本当に投げられるようになるのか…」
  • 「周りはプレーしているのに自分だけ休んでいる…」
  • 「フォームを変えるのがうまくいかない…」

など不安はつきものです。

このため、近年は

  • メンタルトレーニング
  • スポーツ心理サポート
  • 動作解析(モーションキャプチャー)
  • コーチング

などがリハビリに含まれることも増えています。


親御さん・チーム指導者に知ってほしいポイント

UCL損傷は
「投げ過ぎ」と「フォーム不良」 の掛け合わせで起こることがほとんどです。

以下に気をつけるだけで発生率は大きく下げられます。

■ 肘を守るポイント

  1. 投球数・登板間隔の管理
  2. 球種(特に変化球)の年齢に応じた導入
  3. 練習量・試合数の適正化
  4. 肩・肘の痛みが出たら即休ませる
  5. 定期的なメディカルチェック
  6. 体幹・下肢を使ったフォームの獲得

特に中学〜高校は成長期で、
骨や靭帯がまだ成熟していない ため過負荷がかかりやすいです。


まとめ:トミー・ジョン手術は“最終手段”だが復帰率は高い

最後にポイントを整理します。

  • トミー・ジョン手術は 内側側副靭帯を再建する手術
  • 投手に多く、投球時の肘内側痛が主症状
  • 保存療法で治るケースも多いが、断裂レベルでは手術が選択される
  • 術後のリハビリは 約1年〜1年半
  • 競技復帰率は 80〜90%と高い
  • 手術後はフォーム改善や筋力強化が必須
  • “魔法の手術”ではないが、適切に行えば再起の可能性は十分にある

肘の痛みで悩む選手やご家族にとって、トミー・ジョン手術は決して恐れるべきものではありません。しかし、

あくまでも 最後の手段であり、適切な診断と保存療法の検討 が重要です。


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