はじめに
「骨折」と聞くと、転んで腕を折った、スポーツで足を痛めた、といったエピソードを思い浮かべる方が多いでしょう。骨折は決して珍しいものではなく、日本では年間数百万人が骨折を経験するといわれています。子どもから高齢者まで幅広い年代で起こり得るけれど、その重症度や回復までの道のりは人によって大きく異なります。
本記事では、骨折の基本的な仕組みから種類、治療法、リハビリ、そして再発を防ぐ生活習慣まで、幅広く詳しく解説していきます。
骨折とは何か
骨折とは、外力や病的な原因によって骨の連続性が失われた状態を指します。完全に折れてしまうだけでなく、ヒビ(不全骨折)も骨折の一種です。
骨は非常に硬い組織ですが、しなやかさも持ち合わせています。外からの衝撃を吸収できる力があるものの、その許容量を超えると亀裂や断裂が起こってしまいます。
骨折が起こる原因
骨折の主な原因は次の3つです。
外傷性骨折
最も一般的な骨折。転倒、交通事故、スポーツ外傷など強い外力によって骨が折れます。若年層に多くみられます。
疲労骨折
同じ部位に繰り返し負荷がかかることで骨が徐々に損傷し、やがて折れる状態です。マラソン選手やバスケットボール選手に多いですが、一般人でも長時間のランニングやウォーキングで起こることがあります。
病的骨折
骨粗鬆症、がんの骨転移、骨の感染症など、骨自体が弱っているときに軽微な外力で折れてしまう骨折です。高齢者に特に多く見られます。
骨折の種類
骨折の分類は多岐にわたります。代表的なものを紹介します。
形態による分類
- 横骨折:骨の横方向に真っ直ぐ折れる。
- 斜骨折:斜めに折れる。ずれやすく治癒に時間がかかることも。
- 螺旋骨折:ねじれるように折れる。スポーツや転倒で多い。
- 粉砕骨折:骨が複数の破片に砕ける。高エネルギー外傷で見られる。
- 不全骨折(ヒビ):完全には折れていない状態。
皮膚との関係
- 閉鎖骨折:骨は折れているが皮膚は破れていない。
- 開放骨折(複雑骨折):骨が皮膚を突き破り、外に露出している。感染リスクが高い。
特殊な骨折
- 圧迫骨折:椎体が押し潰されるように折れる。高齢者の脊椎で多い。
- 剥離骨折:腱や靭帯が強く引っ張られて骨の一部がはがれる。
- 病的骨折:骨粗鬆症や腫瘍による脆弱性骨折。
骨折の症状
骨折に特徴的な症状には以下があります。
- 疼痛:動かすと強い痛みが走る。
- 腫脹(はれ)・皮下出血:折れた部分に炎症や内出血が起こる。
- 変形:骨の位置がずれて不自然な形になる。
- 可動制限:関節や骨を動かせなくなる。
- 異常可動性・軋轢音:骨が折れた部分で異常に動いたり、ゴリゴリとした音を感じる。
ただし骨折の種類によっては「軽い痛みだけ」や「少し腫れているだけ」と見過ごされることもあり、特に高齢者では注意が必要です。
骨折の診断
病院では次のような方法で診断します。
- 問診・視診・触診:どんな状況で受傷したか、腫れや変形の有無を確認。
- X線検査(レントゲン):最も一般的で、骨折の有無や形態を確認。
- CT/MRI:複雑骨折や小さな骨折、軟部組織損傷の評価に有効。
- 骨密度検査:骨粗鬆症の有無を調べ、再発予防につなげる。
骨折の治療
骨折の治療は大きく「保存療法」と「手術療法」に分かれます。
保存療法
- ギプス固定:一般的に皆さんが良く目にするものです。骨折部位を全体的に覆います。
- シーネ固定:ギプスを片側だけしてあとは包帯で巻いておきます。

手術療法
- 観血的整復固定術(ORIF):骨を元の位置に戻し、金属プレートやスクリューで固定。
- 髄内釘固定術:長管骨(大腿骨・脛骨など)に金属の棒を入れて固定。
- 人工関節置換術:関節面の損傷が大きい場合に行われる。
治癒過程
骨は次のステップで回復します。
- 炎症期(数日間):血腫ができ、修復が始まる。
- 仮骨形成期(数週間):コラーゲンや軟骨が形成される。
- 硬化期(数か月):骨が硬くなり強度が増す。
- リモデリング期(数年):元の形に近づいていく。
骨折とリハビリ
治療と並行してリハビリは非常に重要です。
- 固定中:関節が固まらないよう、周囲の筋肉や関節を動かす運動を行う。
- 荷重開始:骨の癒合が進んだら徐々に体重をかける。
- 筋力強化:固定中に弱った筋肉を回復させる。
- バランス・歩行訓練:転倒再発を防ぐ。
リハビリを怠ると関節拘縮(固まって動かない状態)や筋力低下が進み、治っても日常生活に支障をきたす可能性があります。
骨を強くするには?
- 栄養:カルシウム・ビタミンD・タンパク質をしっかり摂取
- 運動:筋トレ・有酸素運動で骨密度を維持
- 日光浴:ビタミンD合成を促進
高齢者と骨折
高齢者にとって骨折は「人生の分岐点」となることがあります。特に大腿骨頸部骨折は寝たきりの原因になりやすく、骨折後1年以内の死亡率が20%を超えるとも報告されています。
そのため「折れないようにする」「早期に手術し動かす」「リハビリを継続する」ことが極めて重要です。
骨折とスポーツ復帰
アスリートにとって骨折は大きな試練です。競技復帰には単なる骨の治癒だけでなく、競技特有の動作に必要な筋力・柔軟性・感覚を取り戻すことが欠かせません。医師・理学療法士・トレーナーの連携が必要で、復帰時期は「骨の癒合」「機能回復」「再受傷リスク」を総合的に判断して決まります。
まとめ
骨折は誰にでも起こりうる身近な外傷ですが、その影響は小さなヒビから命に関わる合併症まで幅広いものです。
- 骨折の原因は「外傷」「疲労」「病的」の3つ。
- 診断にはレントゲンが中心。
- 治療は保存療法と手術療法があり、リハビリが欠かせない。
- 高齢者では骨折が「寝たきりの引き金」になるため予防が極めて重要。
「骨を折らないようにする」ことはもちろん、「折れても早く回復できる体づくり」も大切です。日々の運動・食事・生活習慣を整えることが、未来の健康と自立を守ることにつながります。
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