はじめに:腱鞘炎ってどんな病気?
「最近手首が痛い」「親指を動かすとズキっとする」「パソコン仕事の後に手がだるい」──このような症状を感じたことはありませんか?もしかしたら、それは「腱鞘炎(けんしょうえん)」かもしれません。
腱鞘炎は、日常的な動作の中で手や指を酷使することによって起こる、非常に身近な疾患です。特に現代人はスマートフォンやパソコンの長時間使用、さらには子育て中の方など、手指を酷使する機会が多いため、腱鞘炎を発症するリスクが高まっています。
この記事では、腱鞘炎の基本知識から、原因・症状・診断・治療法・自宅でのセルフケア・予防法まで、分かりやすく解説していきます。
腱鞘炎とは?構造から理解する
腱鞘炎とは、「腱」とそれを包む「腱鞘(けんしょう)」の間で炎症が起こる疾患です。
腱とは?
筋肉が骨に付着するための“ひも”のような構造で、筋肉の力を骨に伝える役割を担います。
腱鞘とは?
腱を覆って保護する「トンネル状の膜」です。腱がスムーズに動けるように潤滑液を出したり、摩擦を減らしたりする役割を果たしています。
腱と腱鞘の間で摩擦が繰り返されると、炎症が起こりやすくなり、それが「腱鞘炎」です。
腱鞘炎の主な原因
腱鞘炎は「使いすぎ症候群(overuse syndrome)」の一種です。以下のような要因が積み重なることで発症します。
長時間の反復動作
- パソコン作業(マウス・キーボード操作)
- スマホの長時間操作(親指の使いすぎ)
- ゲームや楽器演奏(ピアノ・ギター・ドラムなど)
- 料理・掃除・洗濯などの家事
- 裁縫や編み物など手作業
ホルモンバランスの変化
- 妊娠・出産・更年期によるホルモンの変化
- 女性は特に腱鞘炎になりやすい傾向があります
姿勢の悪さ・身体のアンバランス
- 肩や首のこり
- 姿勢の歪みから前腕や手首に負担が集中する
ストレスや疲労の蓄積
精神的・肉体的ストレスも、筋肉や腱の緊張を高め、炎症を引き起こしやすくします。
腱鞘炎の代表的な症状と種類
腱鞘炎といっても、炎症を起こす場所や原因によっていくつかのタイプに分けられます。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

- 主に親指の付け根が痛む
- 親指を動かすたびに手首に鋭い痛みが走る
- 育児中のママに多い疾患
ばね指(弾発指)
- 指を曲げ伸ばしする時に引っかかる
- 指がバネのように「カクッ」となる
- 中高年の女性に多い
- 手のひら側の指の付け根に痛みや腫れ
手首の腱鞘炎
- キーボード・マウス作業の多い人に起きやすい
- 手首の外側や親指側が痛む
- ひねる、握る動作で悪化
診断方法
整形外科では以下のような方法で腱鞘炎の診断が行われます。
- 問診: いつから、どんな動作で痛いのか
- 視診・触診: 腫れや熱感の有無
- Finkelsteinテスト: ドケルバン病の判別に使われる
- 超音波検査: 炎症や腫れの有無を視覚的に確認
- X線: 骨の異常を除外(腱鞘炎では基本的に異常なし)
治療法:保存療法から手術まで
安静と休養
何よりも大切なのは「使わないこと」。まずは負担の原因を取り除くことから始めましょう。
アイシング・温熱療法
- 急性期(炎症が強い時): 氷で冷やして炎症を抑える
- 慢性期(慢性的な痛み): 温めて血流を良くする
テーピングやサポーター
手首や指を固定することで、動作時の負担を軽減します。
薬物療法
- NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬): 痛みや炎症を和らげる
- 湿布薬や塗り薬: 軽度の症状に有効
ステロイド注射
重症例では、腱鞘に直接ステロイドを注入して炎症を抑えます。ただし、繰り返し使用は副作用のリスクあり。
手術療法
- 保存療法で改善しない場合は「腱鞘切開術」が行われます。
- 腱の通り道を広げることで症状を改善。
自宅でできるセルフケア・ストレッチ
前腕のストレッチ

- 片腕を前に出し、手のひらを下に向けて指を反対の手で反らす
- 15〜30秒×2〜3回/日
手首の円運動
- 手首をゆっくり円を描くように回すことで関節の可動域を維持
手のグーパー運動
- 指を思い切り開いてからぎゅっと握る
- 10回×2セット/日
ゴルフボールやテニスボールを使ったマッサージ
- 手のひらや前腕をボールでグリグリ押すと筋膜がゆるみ、痛みが軽減されることがあります。
腱鞘炎を予防する生活習慣
手や指の使いすぎを避ける
1時間に1回は手を休める、ストレッチを入れるなど、定期的な休憩を入れる。
正しい姿勢・環境づくり
- デスクワーク時は肘の角度が90度になるよう調整
- リストレストやキーボードの高さも重要
冷えに注意
手首や指先の血流が悪くなると、腱の滑りが悪くなり、炎症のリスクが上がります。
筋力トレーニング
前腕や肩の筋肉をバランスよく鍛えることで、過度な負担がかかりにくくなります。
腱鞘炎になりやすい人の特徴と注意点
- 女性(特に妊娠・出産期、更年期)
- ピアニストや美容師、調理師、介護士など手を酷使する職業
- スマホを一日4時間以上使用する人
- 猫背・巻き肩など姿勢の悪い人
上記に当てはまる方は、腱鞘炎予防の意識を高く持ち、日々のケアを取り入れていきましょう。
まとめ:腱鞘炎は「使いすぎサイン」!早めの対策がカギ
腱鞘炎は一度発症すると、なかなか治りにくい慢性的な痛みになることもあります。そのため、**「早期発見・早期対応」**がとても重要です。
「ちょっと痛いけど、我慢すれば大丈夫」──このような考え方は危険です。症状が軽いうちに、使い方を見直し、休養やストレッチを行うことで、悪化を防ぐことができます。
現代のライフスタイルでは、どうしても手指に負担がかかりがちです。日々のセルフケアを大切にし、手首・指をいたわる習慣を取り入れていきましょう。
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