「最近、長く歩くと足がしびれる…」
「腰の痛みだけでなく、太ももやふくらはぎにも違和感がある」
「座って休むと楽になるけど、またすぐ痛くなる」
このような症状を感じている方、それは**脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)**かもしれません。
高齢者に多くみられるこの疾患は、放置すると歩行困難になったり、排尿・排便機能に障害が出ることもあります。しかし、正しい知識を持ち、早期に対応すれば症状を軽減し、快適な生活を取り戻すことができます。
本記事では、脊柱管狭窄症の原因・症状・診断・治療法・予防法まで、わかりやすく解説します。
脊柱管狭窄症とは?
脊柱管狭窄症とは、背骨の中にある**神経の通り道「脊柱管」**が、加齢や変形によって狭くなり、神経や血管が圧迫される状態を指します。多くの場合、**腰部(腰椎)**に起こるため、「腰部脊柱管狭窄症」と呼ばれることが多いです。
◆ 脊柱管の役割
脊柱管は、脊椎(背骨)に囲まれたトンネルのような構造で、中には脊髄や神経根、血管が通っています。加齢による骨や靭帯の変形、椎間板の突出、関節の肥大などによって、このトンネルが狭くなり、神経を圧迫するとさまざまな症状が現れます。
脊柱管狭窄症の主な原因
脊柱管狭窄症の原因はさまざまですが、主に以下の要素が関係します。
■ 加齢による変化
- 椎間板の変性(つぶれて高さが低くなる)
- 黄色靱帯の肥厚(靭帯が分厚くなる)
- 椎間関節の変形
- 骨棘(こつきょく)の形成(骨のとげのようなもの)
これらの変化により、脊柱管が徐々に狭くなっていきます。
■ その他の要因
- 腰椎すべり症
- 腰椎分離症
- 椎間板ヘルニアの慢性化
- 外傷や手術後の瘢痕組織
- 生まれつきの脊柱管狭窄(先天性)
特に高齢者では、これらの要因が複合的に作用して症状が出ることが多いです。
代表的な症状と見分け方
脊柱管狭窄症の最大の特徴は、**間欠性跛行(かんけつせいはこう)**と呼ばれる症状です。
◆ 間欠性跛行とは?
歩いていると足がしびれたり、痛みが出て歩けなくなるが、少し座って休むとまた歩けるようになる現象です。これは歩行によって神経が圧迫され、血流が悪くなることで生じます。
◆ その他の症状
- 腰痛(重だるい、鈍い痛み)
- 下肢のしびれ、脱力感、冷感
- 太もも、ふくらはぎ、足先の感覚異常
- 排尿・排便の障害(進行したケース)
なお、座っていると症状が軽く、立ったり歩いたりすると悪化するというのも、脊柱管狭窄症の特徴的なパターンです。
診断方法
■ 問診・視診
医師は以下のような点を詳しく聞き取ります。
- 症状が出るタイミング(歩行時、立位時など)
- しびれや痛みの範囲
- 安静時に症状が軽くなるか
- 排尿障害や筋力低下があるか
■ 身体診察
- 足の筋力や感覚のチェック
- 反射異常の確認
- ストレートレッグレイズ(SLR)テスト
■ 画像検査
- MRI検査:神経の圧迫や脊柱管の狭さを正確に把握
- X線検査:骨の変形やすべり症の有無を確認
- CT検査:骨棘や椎間関節の異常が詳細にわかる
早期発見がその後の予後を左右するため、症状がある場合はなるべく早めに整形外科を受診しましょう。
治療法
脊柱管狭窄症の治療には保存療法(手術以外)と手術療法があります。多くの場合はまず保存療法から始め、効果が乏しい場合に手術を検討します。
■ 保存療法(手術をしない治療)
◎ 薬物療法
- 消炎鎮痛剤(NSAIDs)
- 筋弛緩剤
- 神経障害性疼痛薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)
- 血流改善薬(プロスタグランジン製剤)
◎ 神経ブロック注射
- 硬膜外ブロック、神経根ブロック
- 一時的に痛みを抑える効果あり
◎ 理学療法(リハビリ)
- ストレッチ、体幹強化
- 姿勢指導
- ウォーキング療法(前かがみでカートを使って歩くなど)
■ 手術療法
以下のような場合には手術が検討されます。
- 保存療法で改善しない
- 日常生活に支障が大きい
- 排尿・排便障害がある
- 進行性の筋力低下がみられる
◎ 主な手術方法
- 除圧術(椎弓切除術など):神経の通り道を広げる
- 固定術(スクリュー固定):すべり症がある場合に実施
- 最小侵襲手術(内視鏡、顕微鏡下手術):低侵襲で回復が早い
日常生活での注意点と予防法
脊柱管狭窄症は加齢と共に誰にでも起こりうるものですが、生活習慣の改善により発症リスクを軽減することが可能です。
◎ 姿勢に注意する
- 長時間の立ちっぱなしを避ける
- 背筋を伸ばして座る習慣をつける
- 腰をそらしすぎないように注意
◎ 適度な運動
- 体幹トレーニング(腹筋・背筋のバランス強化)
- 水中ウォーキングや自転車漕ぎもおすすめ
- 無理のない範囲で続けることが大切
◎ 体重管理
- 肥満は腰椎に大きな負担をかけるため、標準体重を維持する
◎ 禁煙・ストレス対策
- 喫煙は血流を悪化させ、神経へのダメージを助長します
- ストレスによる筋緊張も腰痛を悪化させる一因です
よくある質問(Q&A)
Q1. 「脊柱管狭窄症は治る病気ですか?」
→ 完全に元通りになるとは限りませんが、多くの人が保存療法や手術により症状を軽減し、日常生活に支障がない程度まで回復できます。
Q2. 「手術は怖いのですが、避けられますか?」
→ 軽症〜中等度の狭窄症であれば、手術をせずに改善する可能性は十分にあります。ただし、進行している場合は医師とよく相談し、早めの対応が重要です。
Q3. 「リハビリはどのくらい続けるべきですか?」
→ 継続的なリハビリ(週1〜3回)を3ヶ月〜半年続けることで、多くの患者さんが改善を感じています。根気よく続けることが大切です。
まとめ
脊柱管狭窄症は、加齢とともに起こりやすい慢性疾患ですが、正しい知識と早期対応によって、症状の進行を防ぎ、快適な生活を維持することが可能です。
「年だから仕方がない」とあきらめず、今できることから始めましょう。
専門医の診察を受ける、運動を取り入れる、姿勢を改善する――それだけでも未来の生活は変わっていきます。
腰や足に違和感がある方は、ぜひ一度医療機関で相談し、自分に合ったケアを見つけてください。
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