はじめに:その腰痛、「こころ」が原因かもしれません
「検査しても異常がないのに、腰が痛くてつらい」
「仕事や人間関係がうまくいかないと、腰が重くなる」
「周囲に“気のせいだ”と言われて、つらい気持ちになる」
このような腰痛に悩まされている方は少なくありません。中でも、画像検査では異常が見つからないのに長引く腰痛の多くは、「心因性腰痛」と呼ばれるものです。
腰痛というと、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの構造的な問題を想像する方が多いかもしれませんが、実は精神的・心理的なストレスが大きく関わっている腰痛もあるのです。
本記事では、
- 心因性腰痛とは何か
- どんな原因で起きるのか
- 症状の特徴と診断の流れ
- 治療・対処法
- 痛みとどう向き合っていくか
という点を中心に、最新の知見に基づいて詳しく解説します。
心因性腰痛とは?
**心因性腰痛(または非器質性腰痛・心理的腰痛)**とは、明確な身体的異常がないにもかかわらず、心理的ストレスや情緒的な要因によって引き起こされる腰痛のことです。
整形外科的には、MRIやレントゲンなどの検査で特別な異常が見つからないにもかかわらず、「痛み」が持続し、日常生活に支障をきたす場合があります。
◆ 慢性腰痛の85%は「非特異的腰痛」
実は腰痛の約85%は、原因が特定できない「非特異的腰痛(non-specific low back pain)」に分類されます。
その中の一定数が、心因性の要素を多く含む腰痛です。
心因性腰痛の主な原因
心因性腰痛は「ストレス」と「身体反応」が絡み合って発生します。
◎ 精神的ストレス
- 仕事や家庭でのストレス
- 対人関係のトラブル
- 経済的な不安
- 過去のトラウマや心的外傷
◎ 感情の抑圧
自分の「怒り」「悲しみ」「不安」などの感情を押し殺している人ほど、身体の痛みとして表れやすい傾向があります。
◎ 心身症的な反応
- 睡眠不足や疲労が蓄積しやすい
- 自律神経のバランスが崩れ、筋肉が緊張し続ける
- 結果として、腰部の筋肉や筋膜がこわばり痛みが出る
◎ 「痛みに対する恐怖(恐怖回避思考)」
「動かすとまた悪くなるかも」といった考えが頭を占めると、体を使うことを避けるようになり、筋力低下や柔軟性の低下を招いてしまいます。これがまた痛みを慢性化させる悪循環になります。
心因性腰痛の症状の特徴
◎ 身体的な特徴
- 腰痛がいつまでも治らない
- 痛みの場所や程度が変化する
- 検査で異常がないのに強い痛みを訴える
- 足のしびれや違和感もあるが、神経学的所見に一致しない
◎ 心理的・行動的な特徴
- 気分が落ち込みやすい
- 過去にうつ病や不安障害の既往がある
- 周囲に理解されず孤独を感じている
- 「痛み=病気の悪化」と極端に考える傾向がある
心因性腰痛は、本人にとって「本物の痛み」です。決して“仮病”や“気のせい”ではありません。脳が“痛い”と認識してしまう状態になっており、それに伴って筋肉の緊張や血流の悪化が起こるのです。
診断:どうやって見分けるのか?
◎ 医師の問診と心理的評価
- いつから痛みが始まったか?
- どのような状況で悪化・軽快するか?
- 日常生活にどれほど影響しているか?
- 過去のストレス体験や気分の浮き沈み
◎ 検査
- X線やMRIで明らかな異常がない
- 神経学的な所見(筋力・反射・感覚)に一致しない症状
◎ 心因性腰痛が疑われるチェックポイント
- 痛みの範囲が曖昧で広い
- 医療機関を何度も受診しても改善しない
- 精神的なストレスと症状が連動している
- 自分の痛みを「コントロールできない」と感じている
治療・対処法
◆ 心因性腰痛の基本的な治療方針は「心と身体の両面からのアプローチ」です。
◎心理的サポート
▶ 認知行動療法(CBT)
- 「痛み=危険」という思い込みを修正
- 自分の思考パターンを見直し、より現実的に捉える習慣をつける
- 不安や抑うつの軽減に効果的
▶ マインドフルネス瞑想
- 今この瞬間に意識を集中する訓練
- 過去や未来への不安を手放し、痛みに支配されにくくなる
▶ カウンセリングや心理療法
- 専門の心理士による対話型の治療
- 自分の感情を整理することで、身体症状が軽減する場合も多い
◎身体的アプローチ
▶ 運動療法
- ストレッチやウォーキング、ヨガなど軽い運動が有効
- 動かすことで**「動いても大丈夫」という安心感**が得られる
- 背筋・腹筋の安定化は腰痛の再発予防にも効果的
▶ 物理療法・リハビリ
- 温熱療法、電気治療、軽度のマッサージなど
- 「心地よさ」によって脳の警戒を和らげる
▶ 薬物療法(必要に応じて)
- 抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもある
- 痛みを抑えるだけでなく、精神的なバランスを整える目的も
痛みとの向き合い方:再発しない心と体の整え方
◎ 痛み=敵」ではなく「体からのメッセージ」と捉える
「この腰痛は、私に“無理をしすぎている”ということを教えてくれているんだ」と考えると、少し気持ちが和らぐこともあります。
◎ 小さな成功体験を積む
「今日は少し散歩できた」「気持ちよく伸びができた」など、体を動かすことで痛みに対する恐怖心を少しずつ薄めていきましょう。
◎ 休む勇気を持つ
心因性腰痛の多くは「頑張り屋」「責任感の強い」人に見られます。限界を超える前に「今の自分をいたわる」ことがとても大切です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 「心因性腰痛って本当にあるんですか?」
→ はい、最新の脳科学でも「ストレスや感情」が痛みと深く関係していることが証明されています。
Q2. 「仮病扱いされてつらいです…」
→ 心因性腰痛は“こころの風邪”のようなものです。本物の痛みであり、けっして怠けているわけではありません。適切なケアで改善できます。
Q3. 「治すにはどうすれば?」
→ 焦らず、心と身体の両面を整えることがカギです。医療機関や専門家に相談し、自分に合った方法を探りましょう。
まとめ
心因性腰痛は、現代社会を生きる多くの人が直面している「見えない痛み」です。
- 原因が見つからない腰痛に悩んでいる
- ストレスが多いと痛みが悪化する
- 薬や治療を続けても良くならない
こうした症状には、「こころ」が関与している可能性があります。
「気のせい」と片づけるのではなく、「自分の心と体の声に耳を傾ける」ことが、回復への第一歩です。
あなたの腰痛には、意味があります。
無理せず、自分を大切にしながら、少しずつ心と体を整えていきましょう。
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