はじめに:「腰が痛い」その原因、もしかして“骨がずれている”?
腰痛に悩まされている方は、日本国内に約2800万人以上いるといわれています。その中で、意外と見落とされがちな疾患が「腰椎すべり症」です。
腰椎すべり症とは、腰椎(背骨の腰の部分)が前方や後方にずれてしまい、神経や周囲の組織を圧迫することで痛みやしびれが生じる病気です。特に中高年の女性や、若い頃に分離症があった方によく見られます。
この記事では、腰椎すべり症の基礎から、症状、診断、治療法、再発防止まで、徹底的に解説します。腰痛に悩む方はぜひ最後までお読みください。
腰椎すべり症とは?
◎ 背骨の構造と「すべり」のメカニズム
人間の背骨(脊椎)は、椎骨(ついこつ)という骨が縦に積み重なってできており、その間にクッションの役割を果たす椎間板があります。
「すべり症」とは、この椎骨のひとつが前方、あるいは後方にズレる状態を指します。このズレによって神経が圧迫されると、腰痛や脚のしびれ、歩行障害などを引き起こします。
腰椎すべり症の種類
◎変性すべり症(中高年に多い)
- 主に**女性(40〜70代)**に多く見られます。
- 加齢によって椎間板や靭帯が劣化し、骨が不安定になって前に滑る。
- 第4腰椎でよく起こります。
◎分離すべり症(若年時の分離症が原因)
- 若い頃に発症した「腰椎分離症」が原因で、長年の経過で骨が前に滑る。
- 男性に多く、第5腰椎に多発。
- 10〜20代で発見され、30〜40代以降に症状が悪化することも。
◎外傷性・先天性・病的すべり症
- 稀ではありますが、事故や先天的異常、腫瘍などによるものもあります。
主な症状と特徴
◎ 腰痛
- 動作時、特に立ち上がり・歩行時・腰を反らしたときに強くなる
- 安静にするとやや和らぐが、長時間の姿勢維持で悪化
◎ 坐骨神経痛
- お尻から太もも、ふくらはぎ、足先までのしびれや痛み
- 神経が圧迫されるために起こる
◎ 間欠性跛行(かんけつせいはこう)
- 歩き続けると脚がしびれて歩けなくなる
- 少し休むとまた歩けるようになる(特徴的な症状)
◎ 足の力が入りにくい・感覚が鈍い
- 重症化すると足に力が入らなくなる、転びやすくなるなど運動機能に障害が出ます
原因と危険因子
◎ 加齢による変化
- 椎間板の水分減少、靭帯のゆるみ、筋力低下
- 骨や関節が不安定になり、ずれやすくなる
◎ 腰椎分離症の後遺症
- 分離部で腰椎が安定せず、数十年かけて滑っていく
◎ 姿勢の悪さ・運動不足
- 猫背、反り腰、座りっぱなしの生活習慣が進行を促すことも
診断方法
◎問診・視診・触診
- 痛みの発生時期、どの動作で痛むか
- 神経症状の有無(しびれ、脱力)
- 腰の可動域チェック
◎画像検査
▶ レントゲン(X線)
- すべりの程度を確認
- 前屈・後屈の動的撮影で不安定性を評価
▶ MRI(磁気共鳴画像)
- 神経の圧迫状態(椎間板、靭帯の肥厚など)を詳しく観察
- 脊柱管狭窄症の併発も確認できる
▶ CT
- 骨構造を詳細に把握
- 分離部や骨の変形、すべりの進行度合いを評価
治療法:保存療法から手術まで
◎保存療法(まずはこれから)
■ 安静と生活習慣の見直し
- 長時間立ちっぱなし、座りっぱなしを避ける
- 適度に休憩を取りながら生活
■ 薬物療法
- 痛み止め(NSAIDs)
- 神経障害性疼痛にプレガバリンなどを使用することも
■ 理学療法(リハビリ)
- 腰・体幹を安定させる筋トレ(腹筋・背筋)
- ストレッチや腰部マッサージ
- 正しい姿勢の指導
■ 装具療法
- コルセット装着で腰椎の動きを制限・安定化
◎神経ブロック注射
- 痛みが強い場合、神経に直接麻酔薬を注入
- 短期的には有効だが根本治療ではない
◎手術療法(症状が重い・保存療法で改善しない場合)
■ 腰椎固定術
- ずれた椎骨を金属スクリューなどで固定する
- 脊柱管が狭くなっている場合は「除圧術」を同時に行うことも
■ 成功率・リスク
- 多くの場合で症状が改善するが、術後リハビリが重要
- 感染や再手術のリスクもあり、医師と十分に相談が必要
予防と再発防止のためにできること
◎姿勢の改善
- 座るときは骨盤を立てる
- 背もたれに深く腰掛け、腰が反らないように
- 長時間の座位は30分に1回は立ち上がる
◎適度な運動習慣
- ウォーキングや水中歩行など、腰に優しい有酸素運動
- インナーマッスル(腹横筋・多裂筋)のトレーニング
◎体重管理
- 体重が増えると、腰椎への負担が増大
- バランスの取れた食事と定期的な運動が重要
◎冷えの予防
- 血行不良は筋肉や関節の硬化を招く
- 寒い時期は腰を冷やさないよう注意(腹巻き・カイロなど)
よくある質問Q&A
Q. 腰椎すべり症は治りますか?
→ 変性すべり症や分離すべり症は「完治」というより症状をコントロールして共存する病気です。正しい治療とリハビリで、痛みなく生活できるようになります。
Q. すべり症でも運動していい?
→ 症状が軽度なら可能です。正しいフォーム・無理のない範囲での運動がむしろ予防になります。ただし、痛みが強いときは中止を。
Q. 仕事中も腰が痛くて困る…
→ コルセットの着用、デスクワーク時の椅子や机の調整、定期的な立ち上がりを心がけましょう。職場環境の見直しも重要です。
まとめ:腰椎すべり症と上手に付き合うために
腰椎すべり症は、加齢や生活習慣の積み重ねによって発症・進行することの多い疾患です。しかし、早期に気づいて対応することで、多くの場合は手術に頼らず、日常生活に支障をきたさないレベルまで改善可能です。
本日のまとめ
- 腰椎すべり症には「変性型」と「分離型」がある
- 腰痛・しびれ・間欠性跛行が主な症状
- 治療は保存療法が基本、必要に応じて手術
- 姿勢改善・筋力強化・生活習慣の見直しで予防可能
腰の違和感やしびれを感じたら、我慢せず早めに専門医を受診しましょう。腰椎すべり症は、正しく理解し向き合えば、人生を取り戻すことのできる疾患です。
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