はじめに
「歩くと股関節が痛い」「靴下を履くのがつらい」「階段の上り下りがしんどい」
こういった悩みを抱えている方は、もしかすると**変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)**かもしれません。
日本では中高年、特に女性に多く見られる疾患で、進行すると日常生活に支障をきたし、人工関節の手術が必要になることもあります。今回は変形性股関節症について、その原因、症状、診断方法、治療、予防法まで詳しく解説していきます。
変形性股関節症とは
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、骨同士がぶつかることで痛みや変形が生じる慢性の関節疾患です。
股関節は、骨盤の「寛骨臼(かんこつきゅう)」と大腿骨の「骨頭(こっとう)」からなる球関節です。本来、骨頭は軟骨に覆われ、関節内には関節液が存在しており、滑らかに動く構造になっています。
しかし、加齢や先天的な異常、体重の負荷などによって軟骨がすり減ると、骨同士が直接接触するようになります。これが痛み、可動域の制限、関節の変形を引き起こすのです。
原因と分類
変形性股関節症は、大きく以下の2つに分類されます。
原発性(一次性)
- 明確な原因がなく、加齢に伴う関節の自然な摩耗によって発症します。
- 欧米ではこのタイプが多く、年齢とともに股関節の軟骨がすり減って発症します。
続発性(二次性)
- 他の疾患や異常に起因して発症するもの。
- 日本ではこちらが多く、特に**臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)**という先天的な股関節の形の異常が原因となります。
臼蓋形成不全とは?
- 股関節の屋根にあたる「臼蓋」が浅く、大腿骨頭を十分に覆っていない状態。
- 関節に不均等な力がかかりやすく、軟骨の摩耗が早期に起きやすい。
その他にも、先天性股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭壊死、外傷なども二次性の原因になります。
主な症状
初期症状
- 動き始めに股関節が痛む(初動時痛)
- 長時間歩くと痛みが出る
- 股関節周囲がだるい・重い
- 可動域が少しずつ狭くなる
中期〜後期
- 階段の上り下り、しゃがむ動作が困難に
- 靴下を履けない、足の爪が切れない
- 痛みが持続し、夜間痛が出ることもある
- 関節が変形し、足の長さに差が出る(脚長差)
- 最終的には杖が必要、または歩行困難になる場合も
診断方法
問診と視診
- どのような動作で痛むか、どれくらいの期間症状があるかを確認。
- 歩き方(跛行)や股関節の可動域をチェックします。
画像検査
- X線(レントゲン):軟骨のすり減り具合、骨の変形や骨棘(こつきょく)の有無を確認。
- MRI:軟骨や関節周囲の軟部組織の状態を詳しく評価可能。
- CT:骨の形状を詳細に確認でき、手術前に行うことも。
治療法
治療は大きく保存療法と手術療法に分けられます。
保存療法(手術をしない治療)
運動療法
- 筋力トレーニング(特に大腿四頭筋)
- 可動域訓練
- 水中歩行や自転車運動などの負担が少ない運動が推奨されます。
物理療法
- 温熱療法、電気刺激療法などで痛みを緩和します。
薬物療法
- 消炎鎮痛薬(NSAIDs)
- 関節内ヒアルロン酸注射なども検討されます。
装具療法
- 杖や股関節サポーターを使って関節への負担を軽減します。
減量指導
- 体重を減らすことで、股関節にかかる負荷を軽減できます。
※保存療法はあくまでも進行を抑えることが目的であり、変形した関節を元に戻すことはできません。
手術療法
保存療法で効果がない場合や、日常生活に支障をきたす場合には手術が選択されます。
骨切り術(関節温存手術)
- 骨の向きを変えて負担を分散させる手術。
- 比較的若年者(50歳未満)に行われることが多い。
人工股関節置換術(THA)
- 変形した股関節を人工関節に置き換える手術。
- 近年は人工関節の性能向上により、10〜20年以上の耐用年数が期待されています。
- 術後はリハビリを経て、痛みが大幅に改善するケースがほとんどです。
予防と日常生活での工夫
体重管理
- 体重が1kg増えるごとに、股関節への負担は約3倍になると言われています。
正しい姿勢と歩き方
- ガニ股歩行や反り腰など、偏った歩行習慣は軟骨の摩耗を早めます。
股関節の柔軟性を保つ
- ストレッチや体操を習慣化しましょう(ただし痛みが強い時は無理に行わないこと)。
正しい靴選び
- クッション性が高く、足にしっかりフィットする靴を選びましょう。
和式トイレ、布団での生活を避ける
- 座る・立つ動作で股関節に大きな負担がかかります。
- なるべく椅子やベッドなど、立ち座りが楽な環境を整えるとよいでしょう。
まとめ
変形性股関節症は、早期に対処することで進行を遅らせることが可能な疾患です。
- 痛みや違和感を「年のせい」と放置せず、早めに整形外科を受診しましょう。
- 日常の運動・姿勢・体重管理によって股関節の負担を軽くすることができます。
- 進行した場合でも、手術によって大きく生活の質を改善できる可能性があります。
「歩ける幸せ」をこれからも続けるために
一度すり減った軟骨は自然には元に戻りませんが、「悪化を防ぐ」「うまく付き合っていく」ことは可能です。早期発見・早期対処が、人生の質を守る大きなカギになります。
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