肩が痛い、腕が上がらない、動かすと音がする…。それらのトラブルの原因には、「肩関節の仕組み」が深く関係しています。
肩関節は、人体で最も可動域が広い関節です。その自由な動きの裏には、非常に複雑で精密な構造があり、たくさんの骨・筋肉・靭帯が協力し合って成り立っています。
この記事では、肩関節の構造と動きの仕組みをわかりやすく解説し、肩の不調を防ぐためのヒントも紹介します。
肩関節とは?まずは基本構造をおさえよう
● 肩関節の定義
肩関節とは、「上腕骨(うでの骨)と肩甲骨(背中の骨)によって構成される関節」です。正式には肩甲上腕関節と呼ばれます。

さらに、肩の動きには周辺の関節も深く関わっており、以下の4つの関節を含めて「肩複合体(shoulder complex)」と総称されます。
● 肩の4つの関節
名称 | 説明 |
---|---|
肩甲上腕関節 | 上腕骨と肩甲骨の関節。主な可動域を担う中心的な関節。 |
肩鎖関節 | 肩甲骨と鎖骨をつなぐ。腕の位置調整に重要。 |
胸鎖関節 | 鎖骨と胸骨(胸の中心)をつなぐ。肩全体のバランス調整に関与。 |
肩甲胸郭関節(偽関節) | 肩甲骨と肋骨の間の滑り動作。肩甲骨の動きを支える。 |
肩関節の構造:可動性と不安定性のバランス
肩関節は、可動域が広い一方で、とても不安定な関節です。関節窩(関節のくぼみ)が浅く、しっかりはまり込んでいないため、**「動くけれど外れやすい」**という構造的特徴を持っています。
● 骨の構成
- 上腕骨(じょうわんこつ):腕の長い骨で、肩関節を形成。
- 肩甲骨(けんこうこつ):背中側にある平たい骨。「関節窩(かんせつか)」というくぼみがあり、上腕骨頭と連結。
- 鎖骨(さこつ):胸から肩に伸びる骨で、肩甲骨の位置を前方に保持。
● 関節唇(かんせつしん)
肩甲骨の関節窩を取り囲む「軟骨のリング」です。これにより、浅い関節窩を少し深くし、安定性を補強します。
肩関節の動きを支える筋肉群
肩の動きには多くの筋肉が関わりますが、中でも重要なのが「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」と「三角筋」です。
● ローテーターカフ(Rotator Cuff)
関節の安定性を支える4つの深層筋です。

筋肉名 | 主な働き |
---|---|
棘上筋(きょくじょうきん) | 腕を横に上げる(外転) |
棘下筋(きょくかきん) | 腕を外に回す(外旋) |
小円筋(しょうえんきん) | 外旋 |
肩甲下筋(けんこうかきん) | 腕を内に回す(内旋) |
→ これらの筋肉は、肩関節の「位置」を保つガイド役です。
● 三角筋(さんかくきん)
肩の表面を覆う大きな筋肉で、腕を上げる主力筋。ローテーターカフと協力して働きます。
肩関節の動きの種類と仕組み
肩関節は、人間の関節の中でも最も可動域が広く、多方向への動きが可能です。
● 主な動きの種類
- 屈曲(腕を前に上げる)
- 伸展(腕を後ろに引く)
- 外転(腕を真横に広げる)
- 内転(腕を体に引き寄せる)
- 外旋(腕を外に回す)
- 内旋(腕を内に回す)
- 水平内転・外転(腕を水平に前後に開閉)
- 肩甲骨の動き(挙上・下制・外転・内転・上方・下方回旋など)
● スカプラ・リズム(Scapulohumeral Rhythm)
肩甲骨と上腕骨は連動して動きます。これをスカプラ・リズムと呼び、腕を上げる際には以下のような比率で動きます。
- 腕を180度上げるとき → 上腕骨:肩甲骨=2:1(120°:60°)
靭帯と関節包:肩を補強する縁の下の力持ち
肩関節は靭帯や関節包(かんせつほう)によって守られています。
● 主な靭帯
- 関節上腕靭帯(GHL):関節の前方を補強
- 烏口上腕靭帯:腱板との衝突(インピンジメント)を防ぐ
- 肩鎖靭帯・喙鎖靭帯:肩鎖関節の安定化に関与
● 関節包
関節を包む袋のような構造。中に関節液が存在し、滑らかな動きをサポートします。
肩関節の滑液包と関節唇の役割
● 滑液包(かつえきほう)
関節の摩擦を減らす潤滑装置です。肩には「肩峰下滑液包」など複数の滑液包があり、筋肉や骨の摩擦を防ぎます。
● 関節唇
肩甲骨の関節窩を囲む軟骨構造で、関節の深さを増して安定性を確保します。これが損傷すると肩の脱臼や不安定性が起こります。
肩関節の仕組みが崩れるとどうなる?
肩関節は非常に精巧な構造をしており、筋肉、靭帯、関節唇、滑液包が絶妙なバランスで機能しています。このバランスが崩れると、様々なトラブルが発生します。
● よくあるトラブル
- ローテーターカフの筋力低下 → 腱板損傷・関節不安定性
- 関節唇の損傷 → 脱臼しやすくなる
- 肩甲骨の動きが悪い → 腕が上がらない、インピンジメント
肩関節の健康を守るには?日常生活でできる予防法
肩関節の仕組みを理解した上で、日常生活に取り入れられる予防・ケア方法を紹介します。
● 姿勢を整える
猫背や巻き肩になると、肩甲骨の動きが制限され、肩に負担がかかります。肩甲骨を背中側に引き寄せる意識を持ちましょう。
● 肩甲骨体操
- 肩をすくめてストンと落とす
- 肩甲骨を回す運動(前後回し)
- 肘を後ろに引くストレッチ
● 適度な運動と休息
筋肉が硬くなると動きが悪くなります。適度に動かし、無理のない範囲でストレッチを続けましょう。
まとめ:肩関節は「自由」と「不安定」のバランス構造
肩関節は、自由に動くという最大の特長を持つ一方で、それを支える仕組みが非常に繊細で複雑です。骨だけでなく、筋肉・靭帯・関節唇・滑液包など、さまざまな要素がチームとして連携して働いています。
そのため、どれか一つが崩れるとトラブルの原因になりやすいのです。日頃から肩の動きや姿勢に気を配り、正しく肩を使っていくことが、痛みのない生活につながります。
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