春や秋の運動会シーズンになると、整形外科を訪れる中高年の患者が急増します。その中で意外と多く報告されるのが「アキレス腱断裂」です。子どもが主役のはずの運動会で、実はお父さん・お母さん、そして先生方の「アキレス腱」が悲鳴を上げているのです。
この記事では、アキレス腱断裂の基礎知識から、なぜ運動会の時期に増えるのか、予防方法や治療について詳しく解説します。
アキレス腱とは何か?その役割と構造

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)と踵(かかと)の骨(踵骨)をつなぐ太くて強い腱です。人体の中でもっとも強靭な腱のひとつで、ジャンプ、ダッシュ、方向転換といった瞬発的な動作には欠かせません。
アキレス腱の主な役割
- 歩行・走行時の地面を蹴る力の伝達
- ジャンプや跳躍時の推進力の発揮
- 足首の動き(底屈)に関与
つまり、アキレス腱がなければ、私たちは走ったり飛んだりすることができません。そんな重要なアキレス腱が「断裂」するとなると、日常生活にも大きな支障をきたします。
簡単に言えば足首から下が動かせません。
アキレス腱断裂とは?
アキレス腱断裂とは、その名の通りアキレス腱が完全に切れてしまう状態を指します。軽度の部分断裂というケースもありますが、多くは完全断裂で、強い痛みとともに「ブチッ」という破裂音を感じる人が多いです。
典型的な症状
- ふくらはぎに強い衝撃を感じる(蹴られたような感覚)
- 歩行困難(つま先立ちができない)
- 断裂部にへこみができることもある
- 強い痛み、腫れ、内出血
よくあるシチュエーション
- ダッシュしようとした瞬間
- ジャンプからの着地
- スポーツの再開初日
- 運動不足の状態で急な運動を行ったとき
運動会シーズンにアキレス腱断裂が多い理由
運動不足からの急なダッシュ
多くの親御さんや先生たちは、日常的に激しい運動をしているわけではありません。そんな中、運動会の「親子競技」や「リレー」で、急に全力疾走する機会が訪れます。
アキレス腱は日常的に負荷をかけていないと柔軟性や弾力性が失われていきます。固くなったアキレス腱は、急激な負荷に耐えきれず、断裂してしまうのです。
30〜50代の「働き盛り」がターゲットになりやすい
アキレス腱断裂のピークは30〜50代の男性。これはまさに運動会で「お父さん代表」になる世代です。若い頃の感覚で全力疾走してしまい、体がついてこない…という典型的なパターンです。
ウォーミングアップ不足
子どもの競技を見て応援していた親が、呼ばれて急にグラウンドへ。準備運動もそこそこに「よーいドン!」となってしまえば、腱への負担は計り知れません。
気温と筋肉の柔軟性の関係
秋の運動会は、朝晩が冷え込みやすく、筋肉や腱が硬くなりがちです。十分に体が温まっていない状態で運動を開始すると、ケガのリスクは一気に高まります。
アキレス腱断裂を防ぐには?
十分なウォーミングアップを行う

ストレッチや軽いジョギングで体を温めてから運動することで、腱の柔軟性を高め、断裂のリスクを大きく下げられます。ふくらはぎのストレッチ(アキレス腱伸ばし)は特に重要です。
「昔の自分」は忘れる勇気を持つ
若い頃の運動経験に引きずられず、今の体の状態を冷静に把握しましょう。全力疾走ではなく「7〜8割」の力で走る意識がケガの予防につながります。
定期的な運動習慣を持つ

週に数回でもいいので軽い運動を習慣化しておけば、腱や筋肉が日常的に使われ、柔軟性を保つことができます。
靴の選び方にも注意
古くなったランニングシューズや運動靴はクッション性が落ち、衝撃が直接腱に伝わりやすくなります。グリップの効いた、足にフィットするシューズを選ぶことが大切です。
アキレス腱断裂の治療法
断裂してしまった場合、早期の治療開始が重要です。治療法には主に2つあります。
保存療法(手術を行わずに治す)
ギプスや装具を用いてアキレス腱を固定し、自然治癒力によってくっつくのを待ちます。高齢者や手術リスクの高い人に選択されやすい方法です。
メリット:
- 手術のリスクがない
- 入院期間が短い
デメリット:
- 再断裂のリスクがやや高い
- 治癒までに時間がかかることがある
手術療法(断裂部を縫合する)
完全断裂の多くが手術の適応となります。アキレス腱を直接縫い合わせ、固定期間を経てリハビリに進みます。
メリット:
- 再断裂リスクが低い
- 早期のリハビリが可能
デメリット:
- 手術・入院が必要
- 傷跡が残る可能性あり
リハビリと復帰までの道のり
治療後には長期的なリハビリが必要です。アキレス腱断裂は「治ったからすぐ全力疾走OK」というわけではありません。以下のような段階的なリハビリが行われます。
リハビリの流れ
- 固定期間(2〜4週間)
腱の癒合を待つ時期。体重をかけず、安静を保ちます。 - 荷重開始(4〜6週間目〜)
徐々に装具を使って体重をかけていきます。 - 可動域訓練・筋力トレーニング(6週〜12週)
足首の動きを戻し、ふくらはぎの筋力を回復させていきます。 - スポーツ復帰(約4〜6か月後)
状態に応じて、ランニングやジャンプなども再開されます。
まとめ:無理せず、楽しく運動会を!
アキレス腱断裂は誰にでも起こり得るケガですが、運動会シーズンは特にリスクが高まる「危険な季節」でもあります。
「たかが運動会」と軽視せず、ストレッチや準備運動をしっかり行い、昔の自分と競争しない意識を持つことが大切です。
何より、子どもたちと一緒に笑顔で運動会を楽しむためにも、自分の体を大切にして、無理のない範囲で張り切りましょう!
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