はじめに:誰もが一度は言われたことがある「運動神経いいね!」
「彼は運動神経がいいから、なんでもすぐできるよね」「私は運動神経が悪くて…」
スポーツの話題になると、必ずといっていいほど登場するのが「運動神経」という言葉です。でも、この「運動神経」、実際にはどういう意味かご存じでしょうか? もしかすると、多くの人が思っている「運動神経がいい・悪い」という表現は、医学的・科学的な視点では少しズレているかもしれません。
この記事では、「運動神経とは何か?」という基本的なところから、「運動神経がいいと言われる人の特徴」や「どうすれば運動神経はよくなるのか?」といった疑問に、脳科学や運動生理学の視点から迫ります。
運動神経とは医学的には「末梢神経」の一部
末梢神経と言うのは皆さんがイメージする神経そのものです。
そもそも、「運動神経」は医学的には「末梢神経」の一種を指します。神経には大きく分けて以下の3つがあります。
- 感覚神経:視覚・触覚・聴覚など、外部からの刺激を脳に伝える
- 運動神経:脳からの命令を筋肉に伝えて、体を動かす
- 自律神経:心臓や内臓の働きをコントロールする(意識的に制御できない)
この中で、私たちが手を動かしたり、足で走ったりするのに関与しているのが「運動神経」です。脳で作られた「動け!」という命令が脊髄を通って運動神経に伝わり、筋肉を収縮させることで動作が実現されます。
つまり、「運動神経がいい」というのは本来、神経伝達の速度や正確さが高いことを意味する言葉です。
一般的な「運動神経がいい」とは?
とはいえ、日常会話で「運動神経がいいね」と言われるとき、純粋に神経伝達のことを指しているわけではありません。一般的に「運動神経がいい」とは以下のような能力を総合したものを指しています。
身体のバランス感覚がいい
バランスを崩さずに動く、スキーやスケボーなどをスムーズにこなす人は運動神経がいいと思われます。
動作をすぐに真似できる
一度見ただけで動きを再現できる、コツを掴むのが早いというのも、運動センスのひとつです。
筋力や柔軟性が高い
ジャンプ力やスピード、体の柔らかさなどの身体的要素も「運動神経の良さ」に含まれます。
空間認識能力や反射神経が優れている
ボールの落下点を予測して動ける、相手の動きにすばやく反応できる人も、「運動神経がいい」と言われるでしょう。
これらはすべて、身体を動かすスキル(モーターコントロール)と、脳の処理スピード、感覚統合能力などの複合的な能力です。
運動神経の良さは生まれつきで決まるの?
結論から言えば、一部は生まれつき(遺伝)ですが、後天的な影響も大きいです。子どもの頃からさまざまな運動を経験してきた人は、脳と体の神経ネットワークが発達し、結果的に「運動神経がよくなる」傾向があります。
特に、以下のような時期が重要とされています。
ゴールデンエイジ(5歳〜12歳頃)
この時期は、運動に必要な神経系の発達が著しいため、ボール遊び・鬼ごっこ・ダンスなど、いろんな動きを経験することが非常に効果的です。
とにかく遊ばせてください!
思春期以降は“上達スピード”が落ちる
一方で、13歳以降になると神経系の発達は一段落します。もちろん新しいスキルを覚えることはできますが、子ども時代ほどスムーズにはいきません。
つまり「運動神経がいい=先天的」ではなく、「運動経験の豊富さ」や「動きを覚える習慣」が大きく影響しているのです。
運動神経は鍛えることができる!
運動神経は先天的なものではなく、訓練によって十分に鍛えることができるというのが近年の研究の結論です。以下に、運動神経(=運動能力)を高めるための具体的な方法を紹介します。
複数の運動を組み合わせる
サッカー、バスケ、水泳など、異なる動作パターンのスポーツを経験することが重要です。多様な刺激が神経系を発達させます。
反応速度を鍛えるトレーニング
・色の違うマーカーを素早くタッチする
・音や合図に反応してスタートする
などのトレーニングは、神経の反応速度を高めます。
視覚・聴覚と動作の連携を強化
・目で見たものに即座に反応して動く
・音の変化に合わせてリズムを取る
など、感覚と動作をリンクさせる練習は非常に効果的です。
体幹を鍛える
体幹(コア)が安定することで、四肢の動きがスムーズになり、バランス感覚も向上します。
大人になっても運動神経は伸ばせる?
もちろん可能です。ただし、子どもの頃ほど神経の可塑性(柔軟に変化する能力)は高くありません。とはいえ、大人でも以下のポイントを意識すれば効果は十分期待できます。
- 新しいスポーツを始めてみる(テニスやダンスなど)
- 脳トレ×運動(リズム運動、ステップ運動、複雑な動作)
- 毎日の生活で体を意識して使う(階段を使う、立つ姿勢を整える)
継続することで、運動能力やバランス感覚、反応速度なども向上していきます。
「運動神経が悪い」は単なる思い込みかもしれない
「自分は運動神経が悪い」と思い込んでいる人の多くは、実は「運動経験が少ないだけ」かもしれません。
誰だって、はじめてのことはうまくできないものです。重要なのは、「できないことに挑戦する習慣」と「体を動かすことの楽しさ」を忘れないことです。
また、脳科学の分野でも、身体を動かすことは脳機能の向上にも良い影響があるとされています。たとえば、定期的な運動は記憶力や集中力のアップ、ストレスの軽減にもつながるのです。
まとめ:本当の「運動神経の良さ」とは
運動神経とは、単なる筋力や身体能力の高さだけでなく、「脳と体をつなぐ回路」がうまく機能していること。
それは生まれつきだけでなく、どれだけ多様な体験を積んできたか、どれだけ動きに慣れているかがカギになります。
もし自分が「運動神経が悪い」と感じているなら、それは「伸びしろがある」というサインかもしれません。大人になっても、日々のトレーニングや体験を通じて「運動神経」は磨くことができます。
「運動神経がいい」=「賢く体を使える人」。
そんなふうに捉えて、明日から少しだけ体を意識して動かしてみてはいかがでしょうか?
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